経験があっても、物語は勝手にできません。
今日から、私は久しぶりにKindleの本文を書き始めます。
元著者で、これまで出した本は累計二十万部を超えました。コピーライターとしても二十年ほど文章を書いてきました。
それでも、経験が多ければ物語がすぐ書けるわけではありません。
材料が多いことと、書くべき場面を選べることは別です。
起きた順に並べると、経歴や日記になりやすい。
何年に何をした。
次に何が起きた。
そのとき、こう思った。
嘘はありません。情報も足りています。しかし、読む人の中に残る物語になっているかというと、別の話です。
材料を全部見せようとするほど、一つの選択は薄くなります。
書くことがないのではない。
物語として、どこを見るかが決まっていないのかもしれません。
起きた順に書くと、報告になる
新井一樹さんの『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオ・センター式 物語のつくり方』(日本実業出版社)には、ストーリーとドラマを分けて考える視点があります。
ストーリーは、出来事の並びです。
会社を辞めた。
新しい仕事を始めた。
失敗した。
やり直した。
一方、ドラマになるのは、障害の中で、その人が何を感じ、何を選び、どう動いたかが見えたときです。
同じ出来事でも、人によって選択は違います。
すぐ辞める人もいれば、最後まで残る人もいる。誰かに相談する人もいれば、一人で抱える人もいる。失敗を隠す人もいれば、自分から公表する人もいる。
出来事だけでは、まだ人が見えません。
なぜ、その人はその選択をしたのか。
そこから物語が始まります。
実体験を書くとき、珍しい事件を探したくなることがあります。大きな成功や、誰も経験していない失敗なら、読んでもらえる気がするからです。
けれど、事件の大きさより、その人だから困ったことのほうが、物語を動かします。
自分を「〇〇すぎる人」として見る
自分の体験を書くときは、自分に近すぎて、性格が見えなくなります。
そこで、いったん自分を物語の登場人物として外から見ます。
心配しすぎる人。
人に頼れなさすぎる人。
相手の期待に応えようとしすぎる人。
どれがよくて、どれが悪いという話ではありません。
同じ性格が、ある場面では助けになり、別の場面では障害になります。
慎重な人は、大きな失敗を避けられる。その一方で、決断が遅れることもある。
この「その人らしさ」と障害がぶつかったところに、書くべき場面があります。
性格を面白く見せるために作る必要はありません。
実際に何を選び、何をしなかったかを見れば、そこから性格はにじみます。
物語の最小単位は、行動と反応
実体験を書くとき、気持ちを丁寧に説明すれば物語になるわけでもありません。
苦しかった。
不安だった。
うれしかった。
感情だけが続くと、読む人は場面をつかめません。
必要なのは、行動と反応の往復です。
本人が選ぶ。
実際に動く。
その結果、自分、相手、状況のどれかが反応する。
その反応を受けて、また選ぶ。
たとえば、断ろうと思っていた依頼を引き受ける。すると予定が崩れる。家族の反応が変わる。本人も、自分がなぜ断れなかったのかに気づく。
大きな事件ではありません。
しかし、「断れなかった」という選択には、その人が出ます。
立派な行動である必要もありません。
逃げた。黙った。余計な一言を言った。誰も頼んでいないのに引き受けた。
他の人ならしなかったかもしれない選択に、その人の価値観や弱さがあります。
出来事をたくさん並べるより、一つの選択と、その後に起きた反応を書く。その往復が見えると、実体験は報告から物語へ変わります。
一つに絞ると、過去を捨てることになるようで不安になります。
けれど、焦点を絞るからこそ、その場面で迷ったこと、選ばなかった道、動いたあとの反応まで書けます。
経験の量を減らすのではありません。
一つの選択を通して、その人の経験を深く見せるのです。
「転」から探すと、必要な過去が見える
本では、物語を考える順番として「転、結、起、承」が示されています。これは掲載する順番ではなく、書き手が場面を探す順番です。
最初に探す「転」は、他の人ならしなかったかもしれない行動です。
次に、その行動によって何が変わったのかを見る。
最後に、その行動を理解するために必要な過去だけを書く。
この順番なら、経験を最初から全部並べずに済みます。選択と関係のない経歴を外し、その人がなぜ動いたのかに焦点を合わせられます。
ただし、原因と結果をきれいにつなぐために、事実にない因果を作ってはいけません。
分からなかったことは、分からなかったままでいい。人の行動には、本人にも説明できない部分があります。
私も今回、出来事の量を数えるところからは始めません。
自分がどこで、何を選んだのか。
そこを探してから書き始めます。
最近の出来事を一つ選び、「他の人ならしなかったかもしれない、自分だけの行動は何だったか」と書き出してみてください。
そこからあなただけの本が生まれるかもしれません☺️



初めて触れる視点でした。
自分の体験にも当てはめながら、繰り返し読んで実践してみます。
勉強になります🙏
自分だけの行動』を意識して、記事を書いていきます✨