文章術の本を何冊も読んでわかったこと
最後に残るのは「相手を迷わせない」だった
文章術の本を読み終えるたび、しばらく文章が書けなくなることがあります。
「一文は短く」
「結論から書く」
「具体的に」
「接続詞を減らす」
「相手の気持ちを考える」。
どれも正しい。
正しいことが十個、二十個と頭に並ぶと、今度は一文書くたびに採点が始まります。
これでいいのか。もっと短くできないか。結論は先か。
そんなことを考えているうちに、さっきまであったはずの言葉が逃げていく。
元作家で、コピーライターを二十年やってきた私も、いまだにこの罠にはまります。
頭の中に編集者を住まわせすぎると、会議ばかり長くなる。
そこで、文章術とコピーライティングの本を五冊、少し離れたところから見直してみました。
扱う範囲も方法も違います。けれど、底に流れているものは、案外同じでした。
文章力とは、うまい言葉を書く力ではない。
私は、相手の迷いを減らす力だと考えています。
まず減らすのは、書き手の迷い
三浦崇宏さんの『言語化力』から受け取ったのは、言葉を探す前に、自分の中の曖昧さを分解することでした。
たとえば「この本は、すごく勉強になった」と書く。
嘘ではありません。ただ、何を知り、どこで驚き、明日から何を変えようと思ったのかが混ざったままです。
これを分けると、こんなふうに書き直せます。
「この本を読んで、難しい話ほど具体例から入ると伝わりやすいと気づいた。次の記事では、説明より先に失敗談を置いてみる」
「すごく」が消えたのに、受け取れるものは増えました。自分でもわかっていないものを、読者だけが鮮明に理解することはありません。
だから、最初にやるのは名文を書くことではない。
何の話なのか。
自分はどこに引っかかったのか。
その前後で、見方がどう変わったのか。
ここを分ける。書き手の霧が晴れれば、文章の輪郭は自然に出てきます。文章術の入口は、案外地味です。
「言いたいこと」を「判断材料」に変える
佐々木圭一さんの『伝え方が9割』には、三つの手順が出てきます。
自分の頭の中をそのまま言葉にしない。相手の頭の中を想像する。そして、自分の目的と相手の利益が重なる言葉をつくる。
これは、相手を思いどおりに動かす技術というより、自分の要求だけで話を終わらせない姿勢です。
「来てください」
「読んでください」
「わかってください」
書き手には事情があります。
しかし読者が知りたいのは、なぜ自分に関係があるのかです。
神田昌典さんの『稼ぐ言葉の法則』では、さらに商品、顧客、選ばれる理由、顧客の内面、信用できる証拠を先に確かめます。
誰に向けた話か。なぜ信じられるのか。何が変わるのか。次にどうすればいいのか。
題名には「稼ぐ」とありますが、この考え方は販売文だけのものではありません。
日記でも解説でも、本の紹介でも使えます。
文章は、書き手の頭の中を展示する場所ではなく、読者が判断するための材料を並べる場所だからです。
強い言葉より、迷わない言葉
コピーライティングというと、「刺さる」「一瞬で心をつかむ」といった強い言葉を想像しがちです。
けれど、野津瑛司さんの『最強の一言 Webコピーライティング』が扱うボタンや短い案内文の世界を見ると、重要なのは派手さだけではないとわかります。
たとえば私なら、「こちら」を「予約内容を確認する」に変える。
「送信」とだけ書かず、何が送られるのかを示す。
人は長い文章だけで立ち止まるわけではありません。たった数文字でも、その先で何が起きるかわからなければ、指が止まります。
逆に、素朴な言葉でも、対象と行き先が見えれば進める。
「決定版」「究極」「人生が変わる」と重ねるほど、文章が強くなるわけではありません。大きな言葉は期待をふくらませますが、判断材料まで増やしてはくれない。
名詞を具体的にする。主語を隠さない。次に起きることを書く。
強さを足すより、わからないところを引く。そのほうが、文章は長く働きます。
型は化粧ではなく、交通整理
藤吉豊さん、小川真理子さんの『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』には、一文一メッセージ、簡潔に書く、推敲するといった基本が並びます。
基本は地味なので、つい新しい型を探したくなります。私も「これさえ使えば」と言われると、いったん試したくなる性分です。
ただ、型の役目は文章を立派に見せることではありません。
一文一メッセージなら、話の枝分かれを減らせる。
簡潔にすれば、読む途中の負担を減らせる。
推敲すれば、書き手には見えていて読者には見えない飛躍を埋められる。
つまり、どれも読み手が話を見失わないための交通整理です。
短ければ正義、という話でもありません。説明不足で判断できないなら、長くしたほうがいい。結論を先に置くかどうかも、読者がどこで立ち止まるかによって変わります。
型に文章を合わせるのではなく、わかりにくさが生まれた場所に型を使う。
そう考えると、頭の中の採点項目が少し減ります。
書き終えたら、三つだけ聞く
もちろん、小説や詩には、あえて説明しないからこそ残る余白があります。
一方、何かを伝える文章で厄介なのは、意図していない迷いです。
五冊の主張は同じではありません。
ただ、今回並べてみると、書き手の曖昧さを分解し、相手の判断材料へ変え、余計な引っかかりを削るという一本の線が見えました。
書き終えたら、採点表を全部持ち出さなくてもいい。
まずは三つだけ、自分の文章に聞いてみる。
「これは何の話か」
「なぜ、この人に関係があるのか」
「読んだ人は、次に何を考えるか。何を試せるか」
公開前の一段落を選び、この三問を当ててみる。足りない一文を足し、重なる一文を引く。
文章をうまく見せようとすると、終わりがありません。
相手を迷わせないように整える。
それだけで立派な文章術と言えるのです。
よしだ健康から引き続き文章術を学ぶ


