Substackが8年連続赤字でもユニコーンになれた理由
日本人がサブスタに全ベットすべき根拠を解説します
「Clubhouseみたいに、すぐオワコンになるのでは…?」
Substackの成長について、投資家向けの分析レポートはある。クリエイター向けのハウツー記事もある。
でも、「この船は沈まないのか?」「乗り続けていいのか?」を、実際にSubstackで書いているユーザーの目線でちゃんと調べた記事が見つからなかった。だから自分で書くことにしました。
Substackは2025年7月、Series Cで1億ドル(約155億円)の資金調達に成功し、会社の評価額が11億ドル(約1,700億円)に達しました。いわゆる「ユニコーン企業(評価額10億ドル超)」です。そう、これは実はほんの去年の話です。
創業から8年間ずっと赤字。売上はたったの4,500万ドル。それでも投資家は「この会社には1,700億円の価値がある」と判断したということなのです。
この話、Substackで書いている私たちにとって、完全に他人事じゃないんですよね。
自分たちが使っているプラットフォームが「なぜ生き残れたのか」を知ること。それはそのまま「ここに賭けていいのか」の判断材料になります。
今回は、Substackの8年間を振り返りながら、この逆転劇の構造を読み解いてみます。
まず結論から
Substackがユニコーンになれた本質的な理由。それは、プラットフォーム上のクリエイター総売上(GMV)が約4.5億ドルに達して、ネットワーク効果が「臨界点」を超えたことです。
もっと平たく言うと、「Substackの中で読者が次の書き手を見つけて、お金を払い始める」循環が自走し始めた。投資家はその循環に賭けたのです。
「金でライターを買う」時代の失敗
話は2020年に遡ります。
コロナ禍でジャーナリストが大量に独立し始めた頃、Substackは「Substack Pro」というプログラムを始めました。著名ライターに年間報酬を前払いして、代わりに購読収益の大半をSubstackが取る仕組みです。
Matt YglesiasやAnne Helen Petersenといった有名どころを引き抜いた。VCから調達した6,500万ドルの資金がこれを支えていました。
2021年3月のSeries Bでは評価額6.5億ドル。当時の売上は約900万ドル。売上の70倍以上という破格のバリュエーション。「クリエイターエコノミー」への期待だけで走っていた時代です。
でも、この「金で人を買う」モデルには限界がありました。前払い報酬に見合うリターンが得られず、2022年夏以降に縮小。共同創業者のHamish McKenzie自身が「簡単に手に入るVCマネーを当てにするわけにはいかない」と認めています。
要するに、お金で作家を連れてきても、それだけではプラットフォームは育たなかったということです。
2022年、どん底
2022年、テック企業全体のバリュエーションが急落する中、Substackは計画していたSeries Cの資金調達を断念します。前回の評価額6.5億ドルを維持できるラウンドが組めなかった。
代わりに2023年3月、クラウドファンディングのWefunderを使って一般投資家から資金を募りました。プレマネー評価額は5.85億ドル。前回より下がってます。事実上のダウンラウンド。
目標200万ドルに対して、最終的に500〜700万ドルを調達。
生き延びるための最低限の資金となりました。
転換点は「Notes」だった
そして2023年4月。Substackの命運を分ける機能がリリースされます。
Notes(ノート)です。
私たちが毎日使っているあの機能。実はこれが、Substackにとって最後の賭けだったのです。
このタイミングには3つの文脈が重なっていました。
① Twitterの混乱
2022年10月にイーロン・マスクがTwitterを買収して、プラットフォームが大混乱に陥っていた。NotesはそのTwitterの「ショートフォーム」の代替として機能しました。
面白いのが、マスクがSubstackリンクを一時的に検閲したこと。これが逆にSubstackの認知度を上げてしまった。敵の攻撃が宣伝になるという皮肉な展開です。
② お金を使わない成長エンジンが必要だった
Series C断念で外部資金に頼れなくなった。「金でライターを買う」のではなく、ユーザー同士が有機的につながる仕組みが必要だった。Notesはまさにその装置です。
③ Recommendationsとの相乗効果
2022年に導入されたRecommendations機能とNotesが両輪で回り始めて、プラットフォーム内の「回遊」が本格化しました。
2025年時点で、有料転換の約25%がプラットフォーム内発見経由。あるクリエイターのデータでは、新規購読者の42%がRecommendations経由、24%がNotes経由だといいます。
私たちが日々Notesを投稿して、リスタックして、フォローし合っているあの日常の行動が、Substackというプラットフォームそのものを生かしている。そういう構造なのです。
「トランプ・バンプ」と500万人突破
2024年の米大統領選が追い風になりました。
政治系ニュースレターへの需要が爆発して、2024年11月から2025年3月の間に有料購読が100万件以上増えた。
数字で見ると、こうなります。
・有料購読数:200万件(2023年)→ 500万件突破(2025年)
・クリエイター総売上(GMV):推定約4.5億ドル
・Substack社の手数料収入:推定約4,500万ドル(年換算)
・2025年Q1にキャッシュフロー初の黒字化
8年間赤字を掘り続けて、ようやく反転。長かったですね。
なぜ投資家は「11億ドル」をつけたのか
売上4,500万ドルの会社に11億ドル。約24倍。高く見えますよね。
でも、投資家の視点では3つのロジックがあります。
1. マーケットプレイスとして見る
GMV 4.5億ドルのマーケットプレイスに対して11億ドル(GMVの約2.4倍)は、実は合理的な水準です。Substackは「SaaS」ではなく「マーケットプレイス」として評価されている。ここが重要なポイント。
2. 手数料10%の安定性
クリエイターが稼ぐほどSubstackも稼ぐ。この構造は解約リスクが低くて、成長と連動する。
3. ネットワーク効果の証明
RecommendationsとNotesで「読者が次のニュースレターを発見する」循環が実際に回っている。これが数字で証明されたことが決め手です。
「5年遅れ」じゃない。今が最前線だという話
日本人が「Substack」と聞いて最初に思うのは、「アメリカでもう流行ったやつでしょ?」ということかもしれません。
違います。アメリカでも今まさに伸びている真っ最中です。
Substackが公開しているデータを見てみてください。
Substackアプリ経由で、四半期ごとに3,200万件の新規購読が発生している
新規購読の40%がSubstackネットワーク内から生まれている
第2の市場である英国では有料購読が50万件を突破
クリエイターの41%が北米以外。グローバル展開が今まさに加速中
50人以上が年間100万ドル以上を稼いでいる
2025年9月にも成長分析ツールなど新機能を継続的に投入中
人気SubstackerのCoco Mocoeは「Substackは2019年のTikTokと同じティッピングポイントにいる」と言っています。TikTokの最大のスターたちが登場したのは、2019年ではなくその2〜3年後だった。Substackでも同じことが起きると。
さらに注目すべきは、Substackが今まさに各国のパートナーシップ担当者を一斉に採用していること。
日本向けには「Head of Partnerships, Japan」というポジションが募集されていて、東京ベースで日本市場の立ち上げを担うポジションです。国際担当責任者のFarrah Storrは「We’re moving quickly(急速に動いている)」とコメントしています。
採用中・採用済みの国は、日本、ブラジル、イタリア、カナダ、オーストラリア、ドイツ・オーストリア・スイス、フランス、オランダ、北欧と、ほぼ全世界。欧州のSubstackクリエイターの年間収益は合計9,000万ドル(約140億円)を超えています。
つまり、日本人が今からSubstackを始めるのは、「アメリカの5年後追い」じゃない。
全世界的に最前線で伸びているプラットフォームに、同じタイミングで乗るということです。しかも、Substack自身が日本市場に本気で投資を始めているタイミングでもあります。
note社との比較してみる
規模感を比較するとわかりやすいのが、日本のnote社(東証グロース上場)との比較です。
Substack:評価額約11億ドル(約1,700億円)、売上約70億円、未上場
note社:時価総額約415〜500億円、売上約41億円(2025年11月期)
Substackは評価額でnoteの約3.5〜4倍、売上でも約1.7倍。収益モデルも違って、noteは法人向けのnote proが成長ドライバー、Substackは個人クリエイターの有料購読が軸です。
日本で「note」と言えば知らない人はいないですよね。そのnoteの数倍の規模のプラットフォームが、今まさに成長の真っ只中にいる。そう考えると、このタイミングで乗る意味が見えてきます。
過去に日本のクリエイターが海外プラットフォームに乗るときは、たいてい「既に成熟した後」だった。でもSubstackは今、まさに成長曲線の急傾斜の途中にいるというわけです。
私たち日本人Substackユーザーにとっての意味
ここからは私の解釈です。
Substackの8年間は、「ネットワーク効果の臨界点を超えるまで、赤字を掘り続けられるか」という問いそのものでした。
VCマネーで作家を買うモデルを捨て
Twitterの混乱という「窓」が開いた瞬間にNotesを投入し
クラウドファンディングで最低限の延命資金を確保しながら
ネットワーク効果が自走するのを待った
この「窓」が開かなかったら、今頃Substackは存在しなかったかもしれません。
昔のSubstackのことを語って、「本来の使い方と違う!」と主張する声もありますが、ちょっと違う。そもそものSubstack自体が変わっているのです。
ニュースレター配信プラットフォームからオールインワンパッケージへと変化することで、成長し始めている段階ということです。
「新しいSubstackが始まったばかり。」
そう捉えておく方が良いと感じています。
10%の手数料は高いのか
Substackを使い続ける上で、避けて通れない問いがあります。
「有料購読の10%の手数料は妥当なのか」
Ghostなら月額固定数十ドル、Beehiivなら年間約3,000ドルで済む。実際、The AnklerやPlatformerなど中〜大規模メディアの離脱は起きています。
でも、Substackの10%には「集客コスト」が含まれているんですよね。RecommendationsやNotesが新しい読者を連れてくるなら、その10%は広告費の代わりです。
現時点での構造は明確で、小〜中規模のクリエイターには合理的、大規模になると割高。
私たちのような個人クリエイターにとっては、当面はSubstackに乗り続ける合理性がある。自分に力がないうちは、プラットフォームの力を借りた方がいい。そう考えています。
最後に
Substackの物語を一言でまとめるなら、こうです。
追い詰められた者が、敵の自滅に乗じて、金のかからない仕組みで反転した。
華やかなユニコーンの裏にあるのは、「窓が開くまで耐える」という泥臭い生存戦略でした。
この構造を知った上でSubstackを使うのと、知らずに使うのでは、プラットフォームとの付き合い方が変わってくると思います。
自分が乗っている船の仕組みを知っておく。それだけで、次の一手の解像度が上がるはずです。
購読して次回もお楽しみください


